2010年01月08日
昨年末、ピアノ本体をお預かりしたYさまのピアノ
これから、大修理(オーバーホール)を行います。
弦や、ハンマーなど消耗部品すべてを交換していきます。修理前には現在の状態を細かく測定して、どう改善していくか計算した上で、部品を外していくことになります。
弦を総張り替えするのに、フレームも外し、弦圧の調整も行います。
↑弦圧測定中
今はまだ、ダンパーしかはずしていませんが、細かく測定後、弦を緩めていきます。2ヶ月ほどで仕上げる予定です。
2010年01月09日
現況のチェック、測定結果などを記録後は、弦を徐々に緩めてから完全に外していきます。
弦だけでなく、弦が巻かれているチューニングピンや、そのピンの周りのピンブロックも新しく交換しますので抜きます。(ピンブロックはフレームを外してから抜きますが)
弦を外した後の状態も測定します。
いつも、スケールを当てて測定していましたが、今回は隙間ゲージを導入。
2010年01月12日
いよいよフレームを外しました。さすがにグランドのフレームは重いです!
フレームを上げて響板の状態もよく確認できます。
とりあえず、ざっと掃除しただけでもキレイになりますね〜
フレームに残っているピンブロック(ブッシュとも言う)を抜きました。
弦が当たる部分を研磨します。磨かないと断線の原因などになります。
2010年01月18日
フレームをキレイに洗った後は、塗装しました。 いい写真が撮れませんでしたが、吹き付けている感じはわかりますでしょうか・・・
これから交換するパーツもだいたい揃いました。
ヤマハ純正のものを使用する箇所と、グレードアップとして、ドイツ製の部品を使う箇所もあります。
今回はオーバーホールなので、やることが沢山あり、工房での仕事も毎日決まった時間という訳ではなく、外仕事の合間に進めていきますので、何をどこまでやったか、また、何をすべきかがすぐにわかるように作戦を練りました!
大きな紙に、ポストイットでやることを細かく書き、色で外装系、内装系、張弦関係に分け、まただいたいの順番に並べてあり、やるべき事をうっかり抜かさないように書き出しました。
ポストイットなので、途中で優先順位を変えたりも出来ますし、やり終わったら、別の紙に貼り変えていけば、終わったことは一目でわかりますし。
これで、うまく時間が使えそうです
2010年01月21日
フレームの塗装も仕上がり、製造番号をしっかり入れました。(が、プライバシー保護のためぼかしています)
弦圧チェックをし、駒の高さの調整が必要と判断した箇所があり、駒を部分的に削りました。駒ピンを抜き、計算された高さになるように削ります。その後黒鉛塗布、ノッチ削り、新しい駒ピンを入れます。
SPSピアノ工房では、消耗部品を交換するだけではなく、現在確立されているピアノ技術理論に基づき、「量産ピアノの欠点を積極的に改良する」1ランク上の修理を目指しています。
2010年01月24日
響板も塗装しなおします。
古い塗料を溶剤を塗って剥がします。デジカメで撮っていたのですが、カードの調子が悪くデータが全て消えてしまいました
塗料の残りや、響板の凹凸を平らにキレイにしていきます。
本日は下塗りまで。これから中研ぎ、塗り、と繰り返し行い仕上げていきます。
タッチ(弾き心地)に影響のある部分… 強いては音へも影響が。
そんな箇所を、スタインウェイの使用されている部品に交換しました。
キャプスタンスクリュー 右側の金色がスタインウェイ用。頭のカーブによる滑りの良さがポイントです
ネジピッチは0.1mmスタインウェイのが狭かったです。問題なく入れ替え出来ました。
鍵盤の下のクロスも、交換しました。堅さがポイントです。
穴は小さくなり、技術者として、鍵盤の深さの調整を行うには作業がしにくくなるのですが、タッチがカッチリとします。
2010年02月01日
ダンパーフェルト張り替えのため古いフェルトを剥がし、ワイヤーやヘッドも磨きました。ダンパーというのは音を止める(弦振動を抑える)役目をしています。低音は太く長い弦ですので、ダンパーも大きな物。高音は小さな物になります。
アクション関係の消耗部分も順番に交換していきます
レギュレチングボタンパンチングクロスを新しいクロスに。落ち着かせるためクランプで一晩。
アグラフの取り付け…
これはネジ穴とネジの相性が大切で、1本ずつしまり具合を確かめ、合うネジを探します。必要以上に数を揃えておかなければなりません。
角度調整はこの後からです。これがまた1本ずつ微調整が大変な作業です。いつだったか、とある公共施設のピアノで、どこかの業者が修理したピアノが、このアグラフの角度がバラバラでひどい物がありました。おそらく、消耗部品を交換する事しか考えてなく、「なぜアグラフが必要なのか」を知らない技術者だったのでしょう… 残念です
鍵盤の奥の方にある部品、バックチェックも交換しました。
大まかにオリジナルと近いところに揃えましたが、最終的にはハンマーも交換しますから、それに合わせて調整していきます。
箱とトレーの中は、古いバックチェックとキャプスタンスクリューです(前の日記)
やることは沢山… まだまだ途中です。
2010年02月10日
響板の塗装の続きです。繰り返し塗料の塗りと研ぎを繰り返し、後はメーカーのマークを貼って、ようやく最後の仕上げ塗装をして完成です。キレイに仕上げるには手間が掛かります。
響板が仕上がればフレームを戻すので、弦枕の準備をはじめました。
弦の下にくるフェルトですが、オリジナルを元にしながらも、適切な厚みになるように加工が必要です。
他、鍵盤の奥のダンパーレバークッションフェルトも張り替えました。
2010年02月13日
色々と準備に時間が掛かっていまして、まだ張弦に入れません… 先に出来ることからやろうと、ペダルをバラしはじめました。前・後・横・下…
ペダル関連の部品を細かくバラして、フェルトやクロスやゴムや革など、雑音防止の部品などを新しく交換します。
2010年02月21日
響板も仕上がり、フレームは弦圧が適正になるようにチェックしながら合わせて乗せます。
フレーム貼りフェルトは弦圧を確認しオリジナルより高くなるよう調整し厚みも異なるフェルトを選んで貼りました。↓赤いフェルトのこと
ダンパーガイドの穴をテフロン加工&アイロンゴテ掛けを行い、取り付けました。右の写真の上がコテ先です。穴の右半分があてた後。穴の大きさの違い分かりますか?
張弦前の最後の準備、チューニングピンブッシュ(ブロックとも言う)を打ち込み、穴あけを行いました。
これでやっと張弦の準備が整い、張弦作業に入りました。
本日は低音部巻線以外を全て張り終わりました。が細かい仕上げはまだまだこれからです。
芯線はドイツのレスロー社の弦を使用しました。
2010年03月06日
低音部、巻線の張弦です。今回、ドイツの芯線「レスロー」弦、に同じくドイツの軟銅線「デーゲン」を巻いた、ヒロエピアノハウス製の巻線を使いました。張弦後の写真です↓
ハンマー交換の準備のため、まずはハンマーシャンクを1つおきに交換。ハンマーシャンクを各セクションの両端残して交換しました。 シャンクの走りなどは「のり紙」と呼ばれる細長い紙を貼ってなおします。切手のように舐めれば付きます。のり紙は4種類の厚さの違いと、貼る長さで調整します。
サポートアッセンブリーも全て外し、消耗クロス類も貼替えのため、まずは蒸気をあてはがしました。
2010年03月15日
サポートアッセンブリーの消耗したクロスやフェルトを全て貼替えました。
ハンマーシャンクの飛び出た余計な部分をカットしキレイにします
サポートアッセンブリーを取付け、クッションフェルトを貼りました
2010年03月20日
ダンパーアッセンブリーを細かく点検し、必要な所のセンターピン交換を行いました
新しいダンパーフェルトをカットし貼り、W型は弦が入るようにします。
ピアノ内部にダンパーアッセンブリーやストップレール、ソステヌートを取付
リバランス(鍵盤鉛調整)は終了、整音もほぼ終了。完成が近づいてきました。
2010年03月21日
外装も仕上がり、調律や整音、整調などを繰り返し行い、馴染ませております。
余談ですが、お預かり作業に時間を費やすため、髪を切る暇がなく伸び放題。時には「アーティスト風?」と言われたり、でも身内からは「…(><;)」。写真手前の黒い皮は譜面台のクロスを貼替える為にサイズピッタリにカットしている所です。が、貼り替えた後の写真がありませんでした^^;
お預かりから丸3ヶ月かかってしまいましたが、その間、代替えのグランドピアノをお使いいただいていたため、私が納得いくまで、じっくりと修理させていただき、元々とても鳴りが浅かったボディも、深い音が出るようになり、響きもタッチもオリジナルを超えた楽器に仕上げられたと思います。
お待たせしてしまいましたが、またYさま宅で末永くお楽しみいただけることを嬉しく思います。
来週8日にYさま宅へ戻して仕上げ調整を行って終了です。